速攻戦略:保険のアップセルに関する教訓

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「申し込み段階でアップグレード」 eDM(メールマーケティング)キャンペーンは、収益源拡大に向けた低コストで手間のかからない手法になります。

顧客には、当初申し込みを受けた生命保険よりも高い保険に加入してもらうことができます。ただしそれには、適切な語り口と、適切なタイミングと、適切な商品提案が必要になります。適切に実行すれば、アップセルは、ほとんど手間を掛けずに収益の拡大を見込める手法になります。

背景

ReMarkは2015年から、米国のある大手生命保険会社のマーケティング施策を行っており、既存の保険契約者を対象に、様々なチャネルをつうじてクロスセリング・キャンペーンを実施しています。この保険会社では、定期生命保険の契約数が毎年かなりの数に上ります。そのためReMarkでは、保険の審査を通り、契約締結を完了する前の顧客にアップグレードができる顧客と判断された場合、アップグレードを勧めることで、収益源を拡大できる機会があると考えました。このキャンペーンは2019年始めから実施され、現在までのレスポンス率は10~19%でした。新たな商品提案を受け、加入した顧客の年間保険料は44%増加しました。

具体的な手順

保険の申し込みを受けて、アンダーライティングの査定中で、契約締結がまだ完了していない数日の間に、ReMarkが、ある金額の生命保険に申し込みをされた顧客に対して、保障額のより大きい保険に今すぐアップグレードするよう勧める、キャンペーンを実施します。この場合、eDMが最も効果的であり、その理由は、メールの配信に時間がかからず、しかも顧客の95%は申し込みの際にメールアドレスを伝えているから多くの方にアプローチが可能です。当初申し込んだ額を上回る保障額の申し込みが可能であると判断された顧客を対象に、保険契約の締結前に、成約を保障した上で、「クリックして承諾」するだけのメールを送付します。

このプロジェクトを開始してから得られた教訓として、次のようなものがあります。

速攻戦略

この種のアップグレード・マーケティングが効果を上げた決め手は、期間の短さにあります。この考え方は新しいものではありませんが、今回の事例で気付いたことは、保険商品がこの手法に極めて適しているということです。顧客は、確認のメールが来ることを元々期待しています。この保険会社のサービス基準では、保険の審査承認から5営業日以内に保険証書を発行または契約締結を完了することになっており、期限があることで、切迫感が生まれます。初年度の場合、月平均で見ると、キャンペーンに返答した顧客が10人に1人を上回るという事実から、この方法によって極めて高い効果を上げることが可能であることが分かります。 顧客が商品提案を受け入れなかった場合、あるいは期限内に返答がなかった場合、保険会社は当初申し込みのあった保険プランでそのまま契約を行います。商品提案が受け入れられた場合、新たな保険で契約が締結されます。

ReMarkでは、試行期間を経て、2日にわたる連続メール(初回勧誘1通と再勧誘1通)に切り替えたところ、レスポンス率が58%上昇しました。

「営業トーク」が営業の妨げに

メールの文面は前向きなものとし、顧客サービス型アプローチを取りました。メールの件名と冒頭のバナーでは、申し込みの審査で承認が下りたこと、また追加の健診や告知も必要がないことを強調しました。つまり、手間をかけずに保障範囲を拡大できるというメッセージです。メールには、顧客が「良い気分」になれるメッセージを使用しました。アップグレードの提案を受け入れるか否かには関わらず、「お客様がお申し込みされた保険の承認が得られました。また保障範囲の拡大も承認を得ております」と伝えました。実際このアプローチは、営業的・プロモーション的な色合いが強いメッセージで試した場合よりも、良い結果となりました。おそらく、最初の保険申込の「ハロー効果」のおかげで、顧客には保険会社とやりとりする心構えができており、また、前向きでプロフェッショナルなメッセージによって、やりとりを継続するための態勢を整えることもできたのでしょう。ReMarkの2020年度の「世界消費者調査(GCS)」によれば、消費者のほとんどは、保険会社から新商品や割引、お金に関するアドバイスなどについて情報提供を受ける回数に満足している一方、定期的な情報提供を増やして欲しいという回答も、約5人に1人の割合に上ります。

自動アップグレードによって保険会社が主導権を持つ

顧客にアップグレードを提案するか否かを決定するのは、一般的に、個人に代わって保険の交渉を行う保険代理店です。保険業界は、特に米国の場合、規制が多く、アップグレードの提供は、手続きが必ずしも一様ではありません。銀行や保険会社は、アップセル・プログラムを自動化すれば、審査承認済みの申込者にアップグレードの資格がある場合、必ず全員に連絡が行くようにすることができます。同じことが、報告にも言えます。対象別自動プログラムを使うことで、営業展開・コンタクト・販売について、一貫性と信頼性の高い報告が可能になります。これは、クライアントが実績の測定や、A/Bテストの実施、何が効果的で、何を変更する必要があるかを判断をする上で、役立ちます。こうしたプログラムでは、メールの作成も提示金額の計算もシステムで自動的に行われるため、人間の介入はほとんど必要ありません。

最後に

これらの取り組みは、全てが最初から実施されたものばかりではありません。時間をかけて継続的な検証を行うことで、キャンペーン戦略を練り上げ、その結果、数値を改善することができました。興味深いことに、アップグレード提示額の最も大きい顧客層が、レスポンス率の最も高いセグメントでした。全てのセグメントで、アップグレードの提示を受け入れることに決めた顧客の割合は、10~19%という結果になりました。チャネルによって割合は異なるものの、この結果は、保険のダイレクト・マーケティングでは極めて珍しいことです。