メンタルヘルス:大丈夫じゃなくても大丈夫

03 Mental Health

良好なメンタルヘルスの重要性を理解することは、健康全体にとって極めて重要です。この記事では、ReMarkが発表したホワイトペーパー『健康の5本柱』から抜粋し、何がメンタルヘルスに影響を及ぼすのか、自身のメンタルヘルスをケアしないことのリスクについて探求します。さらに、ポジティブな変化をもたらすために簡単に取り入れられる行動についても紹介します。

メンタルヘルスはあらゆる面で不可欠なものです。世界保健機関(WHO)も「メンタルヘルスなくして健康なし」と言明しています[1]

WHOによると、メンタルヘルスとは、「個人が自分の能力を認識し、人生の通常のストレスに対処でき、生産的で有益に働くことができ、地域社会に貢献できる健康の一般的状態」と定義されています[2]

精神疾患がないことに加えて、良好なメンタルヘルスとは、ポジティブな幸福感を持つことです。これは、ライフスタイルの選択から、困難や変化への対処方法に至るまで、私たちのすべての行動に影響を与える可能性があります。

世界疾病負荷研究所によると、精神疾患は過去30年間で増加傾向にあり、その数は膨大です。1990年には、精神疾患の患者数は6億5,480万人と推定されていましたが、2019年までには48.1%増の9億7,010万人と推定されています。

これらの統計から、メンタルヘルスの問題を経験する人の確立が比較的高いのは不思議ではありません。私たちの約6人に1人は、人生のある時点でうつ病や不安症など一般的なメンタルヘルスの問題を抱えていることになります[3]

2019年の新型コロナウイルス感染症の流行は、メンタルヘルスにも大きな影響を与えています。ウイルス感染への不安、友人や家族の健康状態の心配、雇用に対する心配に加え、孤立感、悲しみ、コントロールできない状況に対処するという事態が、世界的なメンタルヘルス危機を引き起こしました。世界疾病負荷研究所によると、2020年に全世界でうつ病の症例が27.6%、不安障害の症例が25.6%増加したことを示しています。

これは懸念を感じさせる統計ですが、パンデミックから得られた前向きな知見もあります。コロナ禍を経験したことで、メンタルヘルスについてよりしっかり取り組むようになりました。経験を分かち合うことで、友人や同僚に精神状態は大丈夫かどうか尋ねやすくなりました。

メンタルヘルスに対する意識を高め、苦しんでいる人が助けを求めやすくすることで、この世界的な問題に取り組みやすくなるはずです。

メンタル不調によるリスク

メンタル不調は、個人の健康とウェルビーイングに深刻な影響を及ぼします。精神疾患を持つ人の死亡率は、そうでない人と比べて2.22倍も高くなります。 

  • 14.3% 全世界でメンタルヘルスの問題が原因で死亡した人の割合

メンタル不調により、肥満[4]、高血圧[5]、循環器疾患[6] 、糖尿病[7]など多くの深刻な疾患のリスクが高まります。例えば、研究結果によると、メンタルヘルスの問題は、冠状動脈性心臓病の発症リスクを最大54%高め[8]、不安やストレスなどの一般的なメンタル不調は、それぞれ41%、27%リスクを高めることにつながります。

このリスク増加の一部は、私たちのメンタルヘルスとライフスタイルの選択の相互作用によって生じるものと思われます。落ち込みや不安感があると、健康的な食事や運動、社交的交流など、健康に良い行動を行うことが減少します。

メンタル不調の結果として、健康に関するこれらすべての他の側面をおろそかにすると、他の健康上の問題が発生するリスクも高まります。例えば、一般的ながんの危険因子には、太り過ぎ、喫煙、飲酒、睡眠不足、運動不足などがありますが、これらはすべてメンタルヘルスの問題と関連している可能性があります。

また、メンタルヘルスは、病気の治療だけでなく、生産性の低下という点でも、世界経済への大きな負担となっています。最も一般的な2大精神疾患であるうつ病と不安症は、世界経済に年間1兆ドルの損失を与え、120億日分の労働時間が失われると推定されています[9]

そのうえ、状況はさらに悪化しており、精神疾患に関連する世界経済の生産損失は、2011年から2030年の間に倍増し、推定16.1兆ドルになると予測する報告もあります。

メンタルヘルスに影響を与えるもの

前向きな生活習慣は、良好なメンタルヘルスとウェルビーイングを促進する可能性があります。何が効果的かを判断するためには、健康やライフスタイルの他の要素が自分のメンタルヘルスにどのように影響しているかを考えることが重要です。

  • 身体活動による影響

運動は気分を高め、ストレスや不安を軽減し、うつ病のリスクを減少させることができます。1日わずか10分の運動で、気分の改善が見られるという研究結果もあります[10]

1日1万歩の目標を達成することでも、大きな効果が期待できます。研究によると、1万歩の目標を達成した人のストレス改善率が5.36%であったのに対し、1万歩以上達成した人のストレス改善率は10.13%に増加したという結果が出ています。

  • 1日10,000歩 =5.36%のストレス軽減

ヨガやストレッチなどの穏やかな運動でも、うつ病や不安症の治療に同様の効果がある可能性があります[11]

  • 睡眠による影響

睡眠とメンタルヘルスの関係は密接に関連しており、睡眠不足がメンタルヘルスの問題を引き起こし、メンタルヘルスの問題が睡眠の問題を引き起こすと言われています。

良質な睡眠は、メンタルヘルスを保つために重要です。ある研究では、睡眠障害のない人に比べて、不眠症の人はうつ病を発症する確率が2倍高いことがわかりました[12] 。睡眠の質を改善するために就寝時の習慣を変えることで、私たちのメンタルヘルスは向上し、うつ病やストレスの発生率が減少したことが研究によって示されています[13]

  • 体重による影響

いくつかの研究結果では、体重とメンタルヘルスとウェルビーイングとの間の関連性が示されています。ある研究では、過体重や肥満であることが、うつ病や不安障害のリスクの上昇につながり、それぞれ27%と55%上昇することが示されました。

その関係は逆も同様です。うつ病の人は、過体重になるリスクが20%高く、肥満のリスクが58%高くなります[14]

  • マインドフルネスによる影響

マインドフルネスとは、自分の考えや感情を認めて受け入れながら、現在の瞬間に集中する状態のことです。マインドフルネスを含む実践は、メンタルヘルスの問題を抱える人にとっても効果的です。その効果はいくつかの研究で示されており、知覚ストレスの軽減、抑うつ症状の緩和、精神疾患の重症度の軽減などの結果をもたらしています[15]

アクションポイント

以下の行動を取り入れることによって、メンタルヘルスとウェルビーイングの向上に役立てられます。

1. 体を動かす体を動かすことで気分が高まり、メンタルヘルスの問題のリスクを低下させることができます。また、本格的なエクササイズは最大の効果をもたらしますが、1日10分しか時間がとれない場合や、より穏やかな運動を好む場合でも、十分な効果が得られます。

2. 健康的な体重を維持する太りすぎはメンタルヘルスの問題のリスクを高める可能性があるため、健康的な体重を維持することを目指しましょう。体を動かし(上記参照)、健康的な食生活を送ることで、この目標を達成しやすくなります。体に良い食べ物が気分を高めてくれることもあります。

3. マインドフルネスを実践するマインドフルネスは健康に良いだけでなく、メンタルヘルスの問題を抱えている人にも効果があり、ストレスやうつ病の
症状を軽減します。現在の瞬間に集中する時間を持つことで、長期的な健康効果が期待できます。

4. 人とのつながりを持つ人間は社会的な生き物なので、友人や家族と過ごすことがメンタルヘルスにおいて良いというのは理にかなっています。楽しい
おしゃべりは、孤独感や孤立感を緩和させ、気分を高め、うつ病やその他のメンタルヘルス問題のリスクを軽減します。

5. 睡眠をとる良質な睡眠は、私たちのメンタルヘルスとウェルビーイングにメリットがあります。決まった時間に就寝し、寝る前の食事やカフェインを控えるなど、健康的な睡眠習慣を身につけることは、メンタルヘルスを含めたあらゆる面で健康増進につながります(詳しくは「睡眠習慣」の章を参照)。

6. 相談相手をつくっておく: 人生の困難に直面したり、気分が落ち込んだりしたときに、相談相手がいることは非常に重要です。このようなサポートは、友人や家族から得られるかもしれませんが、会社の支援プログラムやメンタルヘルスアプリを利用することもできます。


参考文献 

[1] Mental health (who.int)

[2] World Health Organization, G. World mental health report: transforming mental health for all. (2022).

[3] World Economic Forum. Global Governance Toolkit for Digital Mental Health: Building Trust in Disruptive Technology for Mental Health. (2021).

[4] Luppino, F. S. et al. Overweight, Obesity, and Depression: A Systematic Review and Meta-analysis of Longitudinal Studies. Arch. Gen. Psychiatry 67, 220–229 (2010).

[5] Meng, L., Chen, D., Yang, Y., Zheng, Y. & Hui, R. Depression increases the risk of hypertension incidence: a meta-analysis of prospective cohort studies. J. Hypertens. 30, 842–851 (201

[6] Jonas, B. S. & Mussolino, M. E. Symptoms of Depression as a Prospective Risk Factor for Stroke: Psychosom. Med. 62, 463–471 (2000).

[7] Carnethon, M. R. Symptoms of Depression as a Risk Factor for Incident Diabetes: Findings from the National Health and Nutrition Examination Epidemiologic Follow-up Study, 1971-1992. Am. J. Epidemiol. 158, 416–423 (2003)

[8] De Hert, M., Detraux, J. & Vancampfort, D. The intriguing relationship between coronary heart disease and mental disorders. Dialogues Clin. Neurosci. 20, 31–40 (2018).

[9] Mental health at work (who.int)

[10] Chan, J. S. Y. et al. Special Issue – Therapeutic Benefits of Physical Activity for Mood: A Systematic Review on the Effects of Exercise Intensity, Duration, and Modality. J. Psychol. 153, 102–125 (2019).

[11] Hallam, K. T., Bilsborough, S. & de Courten, M. “Happy feet”: evaluating the benefits of a 100-day 10,000 step challenge on mental health and wellbeing. BMC Psychiatry 18, 19 (2018).

[12] Baglioni, C. et al. Insomnia as a predictor of depression: A meta-analytic evaluation of longitudinal epidemiological studies. J. Affect. Disord. 135, 10–19 (2011).

[13] Facer-Childs, E. R., Middleton, B., Skene, D. J. & Bagshaw, A. P. Resetting the late timing of ‘night owls’ has a positive impact on mental health and performance. Sleep Med. 60, 236–247 (2019).

[14]Luppino, F. S. et al. Overweight, Obesity, and Depression: A Systematic Review and Meta-analysis of Longitudinal Studies. Arch. Gen. Psychiatry 67, 220–229 (2010).

[15] Wang, Y.-Y. et al. Mindfulness-based interventions for major depressive disorder: A comprehensive meta-analysis of randomized controlled trials. J. Affect. Disord. 229, 429–436 (2018).